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日本と他国の仕事を比較 博士が普通に会社員をしている国

今回は日本と他国の仕事の比較をしてみたいと思います。

私のそれほど多くない経験上の話なのでそれは違うと思われる方もいるかもしれませんが、
薄く、長ーく感じている印象なのでそんなに的外れでもないと思っています。

いつもはインドネシアのことを話すのですが、
今回比較するのはドイツです。

  1. ドイツで仕事をすることになったきっかけ
  2. ドイツ人の仕事っぷり
  3. 日本とドイツの『設備』に関する考え方

 

ドイツで仕事をすることになったきっかけ

私が当時担当していたのは歯車の機械加工の仕事でした。

新製品設計でこれまでのやり方では実現できない仕様が採用されることになり、
それを実現すべく技術開発をすることになったのですが、
その担当者として私が任命されました。

当時私は入社して2年目か3年目だったと思いますが、
歯車なんて触ったこともなく、
歯車って何?
という状態でした。

ここら辺の話はまた別の機会で詳しく記事にしてみたいと思います。

そんなこんなで開始したプロジェクトでしたが、
まずは日本の設備メーカーに相談をし、テストをさせていただくことになりました。

ですが、思ったように精度が出ませんでした。

当時、まだその技術はそれほど普及しておらず、
多くの設備メーカーさんが手を出してはいたものの、
ものにならず製造をやめたりしていました。

トライをさせてもらったメーカーさんも同じような状態で、
そもそもトライ機すら持っておらず、
どこかの会社に売る設備を使ってトライをするような状況でした。

ちなみに、トライ機を持つにはお金がかかるので、
この時に限らずこういう状況は時々あるんですけどね。

我々としてはもっとトライを続けたかったのですが、
メーカーさんもトライ機がないんだから続けられない。
どうしようかなあ、他の日本メーカーに声をかけようかなあ、
というような状況でした。

その時にひょんなことからドイツの歯車製造設備メーカーから売り込みがありました。

確か、私たちが狙っていた設備ではない設備を売り込みにきたと思いますが、
話を聞いてみたら以外にやれそうだ、みたいな感じになり、
じゃあ、トライをしてみよう、ということになりました。

私は知らないメーカーさんから売り込みがあったとしても
できるだけ話を聞くようにしているのですが、
それはこの時の体験があったからです。

実際にトライをしてみることにはなりましたが、
保全マンはヨーロッパの設備を入れることをとても嫌がりました。

保全マンというのは、壊れた設備を修理する人のことです。

なぜイヤかと言うと、やはり設備が壊れた時に修理に時間がかかるからです。
保全マンといってもすべての設備を自分たちだけで修理できるわけではありません。
各設備メーカーの専門のサービスマンに修理をお願いすることも多々あります。
その時に言葉が通じないとか、呼んでもすぐに来れないとか、
補修部品がないとか、そういうことが懸念されました。

日本の設備メーカーでも同じような状況になることはあるのですが、
ヨーロッパの設備メーカーは特にこの傾向が強いんです。

あとはSIEMENS(シーメンス)ですね。

日本の設備の場合、FANUC(ファナック)というメーカーの
NC装置を使うことが多いです。
このNC装置というのは、簡単に言うと生産設備の動きを司る脳みそのようなもので
この装置の性能が高いと高精度な製品が作れますし、
設備に複雑で高精度な動きを指示することもできます。
したがって、生産設備にとってはとても重要な装置です。

FANUCは日本のメーカーですし、在庫の量も豊富。
サービス体制も非常にしっかりしているので
日本の保全マンはFANUCを希望します。

ですが、海外のメーカー、特に欧米のメーカーはSIEMENSの
NC装置を使うことが多いんです。
欧米メーカーの人に言わせると、どうしてもFANUCではできない制御があるらしく、
SIEMENSじゃないと自分たちがやりたい制御ができないらしいです。

それが嘘か本当かは私にはわかりませんが、
たぶん彼らも日本のFANUCを使うよりは同じドイツ製のSIEMENS部品を
使いたくなる気持ちはよくわかります。

これに関連した記事を過去に書いていますので、良かったら読んでみてください。

自分で自分のことを決められる国=先進国 今日は私がインドネシアにいた時に感じていたことを書きたいと思います。 それは、先進国とはなにか、ということです。 ...

ところがこのSIEMENSのNC装置、よく壊れるんです。
最近はどうかはわかりませんが、昔は本当によく壊れたそうです。

私の会社でも過去にSIEMENSを使っている設備が壊れて、
修理するのに大勢の人がめちゃくちゃ苦労した経験があるそうで、
ドイツからサービスマンを呼んで修理をしてもらったらしいのですが、
終わるまでに数か月かかったこともあったらしいです。
古い設備ならまだしも、新品で買ってきた設備でそんな状況だったそうです。
結局、だましだましその設備を使っていたそうなんですが、
最終的に修理しきれず、他のメーカーに売却することになりました
(そのメーカーは修理できるのか?と私は疑問に思いましたが・・・)

とにかく保全マンはSIEMENSという言葉を聞くだけで拒絶反応を示すほどでした。

聞いたところによると、他の日本の会社でもこういうことがよくあるらしく、
『SIEMENSアレルギー』
という言葉があるくらいだそうです。

このように保全マンはヨーロッパの設備を嫌いましたが、
他に方法がないので仕方がありません。

実際に導入するかはわからないけどまずはお試しで、
という感じで説得しました。

こうして、ドイツの設備メーカーと仕事をすることになったのです。

ドイツ人の仕事っぷり

日本の工作機械のレベルは世界の中でもトップクラスであると言っていいと思います。

そもそも設備メーカーの数が多いし、
それらを支える優秀な部品メーカー、装置メーカーもたくさん存在します。
そして、そこで作られた設備を使うユーザーもたくさん存在します。

そういう厳しい環境の中で切磋琢磨していることが
今でも世界のトップクラスでいられる理由だと思います。

ですが、こと歯車製造の設備ということになるとちょっと話は違います。
特に歯車の仕上げ加工の設備に関しては日本の設備よりも
ヨーロッパの設備の方が優秀であるというのが定説になっていますし
(日本の設備メーカーもそれを認めているところがあります)、
一部の分野については日本では作れない設備も存在します。

私にはなぜそのような状況になってしまうのかが理解できませんでした。
そこら辺の秘密を探ってやろうと思っていたこともあって、
ドイツに行けることはとてもワクワクしたことを覚えています。

初めての海外出張だったこともありますし、単純にドイツに行けるという
喜びの方が強かったですけどね🤣

トライはドイツの設備メーカー工場で実施することになりました。
日本のメーカーでは考えられないようなトライ費用を払い、
治具や刃具の準備を進めてもらいました。

ですがそこはさすがドイツ。
当初約束していた納期に間に合わず、
結局私は長男の出産に立ち会えない状況になってしまいました。
それでも、ドイツに行けるチャンスだからということで
送り出してくれた妻には感謝しています。

いざ、トライに立ち会うためにドイツへ行ったわけですが、
彼らは工場でも制服を着ずにジーンズとシャツで仕事をしていました。
日本の工場では当たり前になっている帽子もヘルメットもかぶっていません。

日本の工場のような慌ただしさというか活気というか、
そういうやかましい雰囲気はあまり感じられず、
なんともゆったりとした時間が流れている感じがしたのを覚えています。

しかも、昼間なのにビールを飲みながら仕事してるんですよね。
さすがドイツ!!って感じじゃないですか?🤣
驚きながらその人を見ていると、
「お前も飲むか?」
というような素振りでニヤっとしていました。

そして工員は15時くらいになったらもう家に帰ってしまう人もいました。
ビールのおじさんも15時になったら帰ってましたね。

他の国と比較しますと偉そうなことを言いながら、
実はドイツとインドネシアを含めた東南アジアの国くらいしか知りません。
サンプルが少ない中での考察ですのであまり信憑性はないかもしれませんが、
そういう文化的な仕事の仕方は別としても、
ドイツ人は噂に聞いていたように日本人と似たような気質を持っていると思います。

私たちの対応をしてくれた営業の方(名前はハンスさん)は本当に良い人で、
常に私たちのことを気にかけてくれましたし、
おいしいレストランに招待してくれたりもしました。

この時ほど英語を話せないことを悔しく思ったことはありません。

学生時代にドイツ語を習っていたこともあり、
割と良い成績だったのですが、もうその頃には忘れてしまっていました。
覚えていた言葉は1~10を数えられるくらいでしたが、
ハンスさんは嬉しそうに笑ってくれました。
本当に良い人でした。

あと、驚いたのが、そこそこの偉いさんになるとみんな個室が与えらえるんですね。

日本の会社であれば、執行役員クラスにならないと個室はもらえないと思いますが、
その会社では部長クラスの人は個室で仕事をしていました。

ハンスさんも個室で仕事をしていたので
実はけっこうな偉いさんだったのかもしれません😝

偉いさんが個室にこもってしまうことの弊害もあると思うので良し悪しはわかりませんが、
仕事のやり方が違うなあ、というのを感じました。

日本とドイツの『設備』に関する考え方

仕事のやり方が違うことも実感として経験しましたが、
設備の作り方に対する感が方にも違いがあるなあと思いました。

ドイツの設備作りの考え方を一言で表現するとするならば
「当たり前のことをやっている」
ということでしょうか。

たとえばの話ですが、私が立ち会った設備についていうと、
一部が変な形をしているんですね。
いびつな形をしているところがありました。

ですが、よくよく考えてみるとそのような形にした方が
加工時の切削負荷をきれいに受け止めてあげられることがよくわかる形になっているのです。

また、設備本体だけではなく、治具についても当たり前思想になっていました。

治具というのは、設備の中で加工できるように製品をつかむ組立部品のことです。
ものづくりにおいては設備の性能と同じくらい大事な物です。

この治具についても加工の力に負けないようにごっつい形になっていますし、
一体型にこだわりがあるようでした。
治具というのは構成する部品を分割してしまった方が作りやすいのですが、
どうしても分割した箇所に力が集中してしまったりするので、
できるだけ一体型で作った方が強度を持たせることができます。

日本の会社の多くはこの治具にできるだけお金をかけないように考えます。
かつ、段取りといって、部品交換をしやすくするような構造を考えます。
摩耗してきたらその部分だけを取り換えられるように分割式にしたりします。

ですが、ドイツの治具構造を見る限り、あまりそこら辺のことは考えられていないように思いました。
何しろ部品の精度を出すためにはここだけは絶対に譲れない、
という考え方が大元にあるように思えてなりませんでした。

日本流の考え方が決して間違っているはありません。
そういうやり方がうまくいく場合も少なくありませんからね。
ですが、お金をケチり過ぎたり、工夫を凝らし過ぎてうまく製品の精度が出ず、
そのために生産性が上がらないというようなことも往々にして発生するんですね。

その点ドイツは精度至上主義というか、少々生産性が悪くてもきっちりと製品の精度を出す、
という意識が強いんだなと感じました。

そういう考えもあってか、やはり日本でトライした時よりも良い結果が得られました。
経験値が違うと言えばそうかもしれませんが、さすがだなと思わされました。

工夫することを否定するつもりはさらさらありませんが、
工夫することに夢中になってしまって原理・原則をおろそかにしてしまう、
なんていうことが日本だとよく見かけられます。
当たり前を当たり前に実行するということは想像以上に難しいことなんです。

当たり前と言えば、過去に書いた記事がありますので、
良かったらそちらも読んでみてください。

トヨタ生産方式 前編 こんにちは。 自己紹介から時間が空いてしまいましたが、できるだけしっかりした記事を書きたいと思っているので、ぼちぼちと...

もう一つ、日本と違うなあと思ったことがあります。

それは、博士が普通に会社で仕事をしている、ということです。

正直、日本の会社で働いていると博士号を持った人に会うことはほとんどありません。
少なくとも私はほとんど経験がありません。

日本の場合、博士課程まで進むということはほとんどの場合、
企業に就職することはかなわなくなってしまいます。

おそらくですが、日本の会社は博士号という物にあまり価値を感じていないんでしょう。
年も食ってるし理屈っぽいわりに、それなりの待遇で迎える必要がある。
それなら若くて言うことを聞くやつを会社に入れて自分たちで育てようと考えるんでしょうね。

また、時々会う博士号を持った方というのも、
どちらかというと理論オタクというような位置づけで見られ、
会社経営の重要なポジションに就くことはあまりないのではないでしょうか。

ここまで私の印象と感想を多く書いてしまいましたが、
そんなことはない!!という方がいらっしゃったらごめんなさい🙇

ですが、そのドイツの会社は経営の重要なところに博士号を持った方がついていました。
彼から技術的なプレゼンも受けましたし、技術的なミーティングの場にも参加していました。

これまで感じてきた設備作りに対する差異はここに原因があるんだろうな、と思いましたね。

歯車というのは見た目は単純かもしれませんが非常に複雑な作り方をするんですね。
工作機械の中でも一番難しいと言っても過言ではないと思います。
日本のメーカーにはできないようなこともヨーロッパのメーカーではできたりもします。

実は私が導入した設備も複雑な動きをしていて、
これ、どうやってやってるの?
と私は未だによくわからないままです😅

そういう凡人では頭の中で描けないような理屈を論理的に表す。
そこに重点を置いて開発をしているんだろうなと思いました。
そのためには理論を人よりも深く学んできた博士を採用する必要があったのだと思います。

そうしてその博士を持った人を単なる技術オタクの位置に据えるだけでなく、
経営の重要な位置につかせて発言権を持たせているということは、
技術や論理の大切さを理解しているからこそできることなんでしょう。

先に述べた設備構造や治具構造も論理的な見方をすると当然の帰結なんでしょうね。
日本のメーカーだって理論を無視しているわけではないと思いますが、
コスト削減が先に来てしまったり、現場感覚を必要以上に大切にし過ぎてしまったり、
人に対する投資を軽んじてしまったりするんでしょうね。

文化的、社会構造的な背景の差もあるとは思いますが、
ここでも「当たり前」、ちょっと難しく言うと「理論」を大事にする、
という思想を垣間見ることができました。

いかがだったでしょうか。

私は日本で育ってきたので、日本流の現場を重視する考え方も嫌いではありません。
ですが、このような「当たり前」なことを「当たり前」として受け入れている文化を
少しうらやましいなと思ってしまうところもあります。

ここからは完全に私の予想なのですが、私の好きなF1の世界でも同じかなと思います。

ホンダのエンジンやブリジストンのタイヤなど、
個々の部品では日本のメーカーは世界のトップに立ちました。
圧倒的な勝ち方をした時代もありましたので、その時は間違いなく世界一だったでしょう。

ですが、いまだにチームとしてF1でチャンピオンを取ったことはありません。

トヨタが莫大な予算をつぎ込んでF1に参加した時期もありましたが、
結局1勝も挙げられずに撤退してしまいました。

ホンダも第1期を除けば、チームとしてはたった1勝しかできていないですよね。
まあ、勝てただけでもすごいことだと思いますけどね。

私はこの現実から考えるに、
理論や当たり前のことを当たり前に実行できる環境がないからではないか、
と想像してしまいます。

技術的には立派な物を持っているのにそれを結果に結び付けられないのは
マネジメントに問題があるからだ、というのが定説になっています。
それは間違いない事実なんでしょうけど、私のドイツでの経験から推測するに、
技術そのものも独りよがりな物になってしまっているのではないか、
と思ってしまうわけです。

ヨーロッパやアメリカは常に世界の最先端の物を生み出していますが、
その根底にはこの思想が根付いているからだと私は思っています。

それを考えると、中国はどうなんでしょうか?

アジア的な考え方をしそうな気もしますし、欧米のような考え方をしそうなイメージもあります。
もし彼らが欧米のような考え方をする民族なのであれば
脅威になることは間違いなさそうですね。