こんにちは。かこかと申します。
少し前に、EV化の波に乗り遅れた日本の自動車産業は半導体業界のように衰退してしまうのか、という記事を書きました。
この記事の中で衰退してしまった半導体業界について書かれた書籍を2冊ほど紹介させてもらっていますが、どちらの書籍においても
「衰退の原因を一つに絞るのは難しいけれど、顧客のニーズが変化していることを捉えることができなかった」
という結論を導いていると私は読み取りました。
確かに従来の技術に対して自信過剰になってしまったがゆえに、顧客のニーズが変わっていることを見過ごしてしまい、新興勢力に負けてしまったという結論は納得がいくところですよね(それ以外にも理由はあると思いますが)。
これらの書籍の中でも自分たちの技術力に対する過信への戒めが書かれていますが、私は少し違った見方をしています。
私もいわゆる大企業に勤める人間として多くの部分は納得できるのですが、技術に対して過信をしていなかったのではないか、というのが私の見方です。
では何が悪かったのかというと、自分たちで作ったルールというか規制というか、自分たちで作った過去の呪縛によって変わることができなかったのではないか、あるいは変わる機会を放棄してしまったのではないか、という風に推測しています。
そう考える理由を説明していきたいと思います。
- 負の技術遺産から逃れられない
- 工場独自の意思が持てない
- 仕事を減らすことができない
負の技術遺産から逃れられない
私もかろうじて自動車業界に関わっている人間の一人ですが、自動車業界のエンジニアたちがEVの力を侮っていると感じたことは一度もありません。というか、逆に尊重し過ぎているのではないかとすら感じています。
そのことから考えると、おそらくですが、紹介した書籍の中に出てくる会社のエンジニアも決して舐めていたわけではないと思うんですね。
では、何が悪かったのかというと、品質基準が厳し過ぎたのではないかと考えています。品質が厳しいというと一見良いことのようにも思えますが、そうとも言い切れない場面があります。
そのうちの1つが、過去の失敗を引きずった品質基準です。
どういうことかというと、過去に開発活動や市場で大きなクレームを出してしまった場合、それに関わる技術やものづくりの方法がすべて封印されてしまうということです。
もちろん、失敗してしまった技術を使わないというのは当たり前のように感じるかもしれませんが、失敗の原因と認定された技術を封印してしまうので、どんどん選択肢を失ってしまうことになります。
さらに悪いことに、その問題を解決するために対策を打つんですが、これで問題が収まると、またその対策が必須の条件として残っていくことになり、やめるにやめられなくなってしまうのです。
これらの考え方の何が問題かというと、本当の原因をしっかり検証しない、ということです。失敗の本当の原因が何かもわからないままに選択肢を封印し、かつ、本当に効いているのかわからない対策が標準仕様になってしまうことにより、どんどん製品自体が高額になっていってしまうんですよね。
もちろん、市場で問題が発生しているのに、真の原因がわかりませ~んなんて言って何も手を打たないことはあり得ないことですし、担当エンジニアは製品開発が終わったらすぐに次の製品開発に移りますので、しっかりと検証していくだけの人手やお金がない場合が多いです。ゆえに、しっかりと検証できないのもやむを得ないところもありますが、このような負の技術遺産をずっと引きずってしまうことはどんどん過剰品質、製品の高額化につながっていってしまいます。
工場独自の意思が持てない
この件は商品開発部門や、さまざまな事業を抱えている比較的大きな会社にのみ適用される内容かもしれませんが、これも持病の一つだと思うので説明しておきたいと思います。
製品を作るのは紛れもなく、工場です。その工場の体質を強化していくことは製造業にとって最重要課題の1つでしょう。
ですが、それぞれの工場の特徴に基づいた運営ができないとしたらどうなるでしょうか?
たとえば設備投資です。お金をどこに使うかを決めることは経営判断の中で最も重要なことだと思いますが、これを決める権限が工場長にはない、というのが多くの製造業の実態ではないかと思います。普通は経営者、つまり社長や工場長が自分たちの工場の弱点やこれから伸ばしていきたい分野を決め、得た利益を見ながら投資をする先を決めるでしょう。
ですが、大きな会社になると、工場長はそれを決めることができない場合が多いのではないかと思っています。というのも、翌年の予算は会社によって決められ、どれだけ必要性を訴えてもその予算枠が大きく増えるということはまずありません。どれだけ古い設備を抱えていてもその更新すらままならないので、何年も、下手をすれば何十年もかけて順番に更新していくしかないのです。
また、いくら自動化だDXだと言ったところで予算は増えません。今は経営が苦しいけど将来の人手不足に備えて投資をするんだ、という気概を工場長が持っていたとしても、そんな意気込みは要らないとばかりに握りつぶされます。そんな状態で自動化なんて進むわけがありませんよね。
予算の話ばかりをしましたが、そもそも、自分の工場がどれだけの利益を上げているのかを把握できている人はあまり多くないのではないかとすら思います。つまり、与えられた予算に対して結果がどうだったのか、という一点のみで管理、評価されるのが大企業の工場です。
自社の製品を作ることが最大の使命ですので、ほっておいても仕事は入ってきます。営業活動なんて必要ありません。売り上げが伸びたところで、それは商品がよく売れているからであって、工場の努力のおかげではありません。逆に売り上げが減ったところでそれも工場のせいではないので、特におとがめはありません。商品が売れなかったんだから仕方ないよね、という感じです。そんな状態では経営感覚を磨くことは難しいと言わざるを得ませんし、工場のレベルを上げよう、生産性を上げようという意思があったとしても、実現するのが非常に難しくなります。
もちろん、だからと言って予算がふんだんに与えられているわけではないので、それを管理するだけでも十分に難しいことだとは思いますが、工場長や現場で働く人の意思が工場運営に反映されづらいというのはおそらく間違いないでしょうし、積極的な提案が生まれてこない原因の一つじゃないかと私は考えています。
仕事を減らすことができない
これは、今までに挙げた2つの要因ともつながっていることかもしれませんが、とにかく仕事が減らないのが製造業の特徴でしょう。
会議はどんどん増えますが、なくなる会議はほとんどありません。作業標準書やルールはどんどん増えていきますが、減ることはありません。過去の失敗をいつまでも引きずります。
基本的な工場の考え方はやらないよりはやった方が良いということではないかと私は思っています。ほとんど誰も聞いていない会議でも、やらないよりはやった方が良い。欠席するよりは出席した方が良い。意味がないと大部分の人が思っているにも関わらず、もしやめたことによって問題が発生したらどうするのか、誰が責任を取るのか、という理由でやり続けてしまうのです。
やれるのであればやった方がいい、という考えにも一理はあると思うので、100歩譲ってやり続けるとします。すると、どうなるか。必要な分野への資源の集中投下ができなくなってしまうのです。そりゃ、やることが多かったら他の仕事に時間が割けなくなるのは当たり前ですよね。あれも大事、これも大事、という具合に優先順位を無視した考え方になってしまい、資源が分散してしまうのです。
また、さきほども述べましたが、「責任」という言葉が重くのしかかっていることもあるでしょう。とにかく工場長は工場で起こるすべてのことを把握しておかないといけない。それが工場長の責任である、という理屈です。私はこの責任という言葉が足かせになっていると考えています。これは工場に限った話ではないので、また別の記事でじっくり書きたいと思いますが、工場というのは他の職場に比べて「品質と安全」というとても重要な要素を預かる所でしょう。ゆえに、工場長はとてつもない責任を背負うことになります。
一方で、さきほども述べたように工場長や現場に与えられた権限はそれほど多くありません。そうなるとどうなるかというと、どんどん管理が厳しくなっていくわけです。これでは仕事も減りませんし、ゆえにコストを下げることも難しくなってしまうのは当然と言えるでしょう。
以上、ここまでで述べてきたように、自分で自分の首を絞めているような環境があったことが柔軟に顧客のニーズに合わせて立ち振る舞えなかった原因になっているのではないか、と私は考えています。そして、そのような環境はいまだに多くの会社、工場に残っていると思います。
先日の記事で私は「日本の自動車産業は半導体産業とは同じ道はたどらない」ということを書きました。
そう考える理由はこの記事を読んでいただきたいですが、今回の記事で書いたような状況が続くのであれば、無意識に自らの手で崩壊への道を選んでしまって、結果的に半導体産業と同じように衰退していってしまう恐れも十分にあると思います。
最後に自己紹介をさせてください。
私はこんな人です。
- 大手企業の生産技術を研究/開発する部署の課長
- 金属切削の生産技術歴 約20年
- 上司と部下の人間関係を中心に仕事のことを書いています
- インドネシア駐在経験あり。インドネシア語検定C級を持ってます
- 高周波焼入れに関する本を書きました
- Twitterもやってます https://twitter.com/Shibakin_2019
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